オススメの映画 スタンド・バイ・ミー ※ネタバレ注意
今週のお題「映画の夏」
冒頭シーン。大人になったゴーディは、道のわきに停めた車のなかでものおもいに沈んでいる。
誰もいない助手席には新聞がおいてあって、その見出しにはこう書かれている。
「弁護士のクリス・チェンバーズ。刺されて殺される」
クリスはかつてのゴーディの親友だ。ゴーディは小学生最後の夏のことを、ゆっくりと思い出しはじめていた。
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ゴーディには友だちがいた。テディ、バーン、そして親友のクリスだ。
いつものように隠れ家でだべっていると、バーンが息を切らせてやってきた。そして、口をひらいてこういった。
「なあ、死体を見にいかないか」
汽車に轢かれて死んだという少年の死体をさがしに、四人はちょっとした旅にでる。
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ゴーディにはデニスという名前の兄貴がいた。
デニスはアメフトの選手で、地元では名の知れたスターだった。
父親も母親もデニスに期待していて、ゴーディのことはまったく気にしてなかった。
ゴーディには小説の才能があった。それは両親にとってどうでもいいことらしかった。
家族のなかでゴーディの才能を認めていたのはデニスだけだった。でも、デニスは四ヶ月前に交通事故で死んでしまった。
両親はその痛手から立ちなおれずにいた。それは、ゴーディも同じだった。
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四人はひたすら線路を歩いていく。
クリスがゴーディに話しかけてくる。
「いよいよ中学だな。お別れだな」
「どうしてお別れになるんだよ」
「お前は進学コース。おれたちは職業コースだ。お前には新しいダチができる。頭のいいな」
「そんなのいやだ。これからも一緒にいたいよ」
「ダチだから道連れにするのはいやなんだ。おれたちと一緒にいたら、脳ミソくさっちまうぞ。お前には小説の才能があるじゃないか」
「小説書くなんて時間のムダだ」
「ハッ!おやじのマネしてんのか。知ってるぞ、お前のおやじはお前のことをなんにもわかっちゃいない。いいか、お前は神様がくれた才能をすてようとしてるんだ。子どもはそうやって大切なものを簡単にすてようとする。だから、誰かがそばについてなきゃいけないんだ。お前の親がそれをやらないっていうんなら、オレが代わりに見守っててやる」
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たき火を囲んでクリス以外の三人が寝ている。
とつぜん、ゴーディが目を覚ます。デニスの葬式の夢をみていたのだ。
夢でゴーディは父親に言われる。「お前が死ねばよかったのに」
「だいじょうぶか。うなされてた。いいから、もう一度寝ろよ」
そう言ってクリスはたき火から少し離れたところに腰をおろす。ゴーディはなんとなくクリスの隣に腰をおろす。
クリスが口をひらく。
「オレ、給食費ぬすんだってことで停学になっただろ。でも、実は盗んだあと、先生に返しにいったんだ。でも、お金はでてこなかった。そしたら、先生、新しいスカートはいてきた。ずっと欲しかったんだろうな。で、オレがチャンスをつくっちまった。オレが盗んだ金を先生が盗んだんだ」
「それ、だれにも言わなかったのか」
「言ってだれがしんじる?オレはろくでなし一家の子どもだって思われてる。でもさあ、信じられないよな。先生があんなことするなんて。……オレ、この街をでたいよ。オレのことを誰も知らない街にいきたい。なあ、オレって女々しいか」
そう言って泣き崩れるクリスの肩にゴーディがそっと手をおく。
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四人は明け方に街にもどってきた。バーン、テディはそれぞれの家路につく。
ゴーディとクリスは高台から街をみおろす。
「オレはずっとこの街から抜けだせないんだろうか」
「君ならなんだってできるさ」
「ああ。そうだな」
クリスはゴーディをみつめる。
「握手してくれ」
クリスがそういって差しだした手にゴーディは手を重ねる。
「さよなら」
「またな、って言えよ」
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ゴーディは小説家になっていた。あの夏の思い出を、一篇の小説にしたのだ。
彼は小説の最後をこう締めくくる。
”クリスとは十年以上会っていなかったが、彼のことは永遠に忘れない。わたしは自分が一二歳のときに出会った友人以上の友人をもったことがない。だれにとってもそういうものではないだろうか。”
オススメの映画 海がきこえる ※ネタバレ注意
今週のお題「映画の夏」
吉祥寺駅のホームで武藤里伽子をみかけたような気がした。
里伽子は、高校二年の夏にボクが通っていた高知の高校に転校してきた。里伽子は「東京のコ」だった。
いわゆる「家庭の事情」というやつで転校してきたのだ。ボクと里伽子のあいだにある思い出は、それにまつわるあれやこれやだ。
高校三年の秋の学園祭以来、里伽子とは口をきいていなかった。それは、親友の松野豊ともそうだった。
ボクは里伽子のことが好きだった。
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ボクは松野豊に学校にくるようによばれていた。
教室にはいると、松野は窓際にたって、身をのりだすように中庭をみつめていた。
「おい、なんで、ヒトよんどいて」
「うん?」
松野にうながされて一階の職員室のほうをみると、窓際に女の子がいた。
「今度、ウチの学年に編入してくる女子やと。武藤里伽子っていうがやと」
「ふうん。お前、なんか興奮してないか」
「興奮するよ、そりゃ。武藤はすげえ美人だぞ」
ボクは松野が武藤のことを好きになりかけていることに勘づいた。
かき氷を食うことにして学校をでたとき、校門の手前で武藤と鉢合わせした。
ボクは松野から武藤に紹介された。
「こいつ、四組の杜崎拓」
里伽子はひょい、と顎をしゃくるようにした。あたまをさげたつもりらしかった。
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里伽子はクラスのなかで浮いていたらしい。
スポーツはできるし、成績だって抜群だ。それが、美人の「東京のコ」となれば目立たないほうがおかしいというものだ。
里伽子はクラスの女子となじむことはしなかった。親の離婚という事情でむりやり母親の地元に連れてこられた里伽子は、高知が嫌いだったのだ。
松野は武藤のことを気にかけていた。好きなのだからあたりまえだ。
松野とのあいだで武藤のことが話題になると、気まずくなることがあった。だから、ボクは武藤のことを話題にださないようにしていた。
それは、ある時期までは簡単なことだった。
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ボクはひょんなことから、里伽子といっしょに東京にいくことになってしまった。
離婚したおやじさんに会いにいくというのに、付き合うはめになったのだ。
悲惨なことに、一年という短い時間のあいだに、里伽子の居場所はなくなってしまっていた。
自分が住んでいたマンションは父親が再婚予定の相手の趣味にあわせて変えられてしまっていたし、呼び出した昔のボーイフレンドは仲のよかったかつての友達とつきあっていた。
里伽子は確実になにかに傷ついたのだ。
里伽子は、ボクが泊まっていたホテルの部屋からでていくとき、泣きそうな顔で笑いながらこう言った。
「ひどい東京旅行になっちゃったね」
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大学生活がはじまってはじめての帰省のとき、ケンカ別れしていた松野豊と仲直りすることができた。
ぼくらは二人ならんで海をみていた。松野は高校三年の学園祭のことを口にした。
「あんときまでわからんかった。お前が、武藤のこと好きやゆうことに」
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吉祥寺駅のホームで、また里伽子をみかけたような気がした。
ぼくはいそいでかけつけたけど、電車は走りさってしまった。ボクは気落ちした。
ふと、視線に気がついて振りかえってみた。
そこには、笑った顔の里伽子が立っていた。
オススメの映画 スモーク ※ネタバレ注意
この映画の舞台はニューヨーク、ブルックリンにある、一軒のタバコ屋です。
このお店の店主はオーギー・レン。きょうも馴染みの客とくだらない話に興じています。
そこへやってきたのが小説家のポール・ベンジャミン。疲れた様子のポールにオーギーは話しかけます。
「ちょうど話してたところなんだ。シガーと女についての哲学的話をね」
「となると、エリザベス女王の話ってことだな」
ポールは煙の重さを量ったかしこい男についてのエピソードを披露して帰っていきます。
オーギーは馴染みの客に話します。
「近所に住んでる作家だよ。ポール・ベンジャミンだ。知ってるか?」
馴染みの客たちは肩をすくめます。
「聞くほうがバカだ。おまえらが読むのは競馬の予想とスポーツ紙だけだからな。3~4冊出版したが、最近は書いてないんだ」
「ネタぎれかな」
「そうじゃない。数年前の銀行強盗をおぼえてるか。犠牲者のひとりがやつのカミさんだった。とてもいい人で、店にもときどきタバコを買いにきてた。妊娠四、五ヶ月だったけど、もちろん、お腹の赤ん坊も死んじまった。まだ立ち直れないのさ」
肩をおとし、うつろな顔で通りを歩くポール。ふらふらと車道にあるきだし、そこに車が突っ込んできます。
「危ない!」
すんでのところをある黒人の少年に助けられます。少年の名前はラシード・コール。ポールは感謝の意をこめて、「ぼくの家にいつでも泊まりにくるといい」と住所を書いたメモをわたします。
後日、少年は二晩ほど泊まったあとどこかに去っていきます。
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ある日、オーギーが店を閉めようとしているところにポールが駆けこんできます。
「まだ売ってくれるかな」
「もちろん。べつにこれからオペラにいくわけじゃない」
レジで勘定をするときに、ポールは一台のカメラに気がつきます。
「だれかの忘れものかい?」
「いいや、俺のさ」
家に招かれたポールはオーギーの膨大な写真をみせられます。オーギーは十年以上、毎朝、おなじ時間におなじ場所に立って写真を撮りつづけてきたのです。
「ゆっくりみなきゃダメだ」
「だって、全部同じ写真じゃないか」
「いいや、同じ写真のようにみえて微妙にちがうんだ。よく晴れた朝。曇った朝。夏の日差し。秋の日差し。新しい顔が常連になって古い顔が消えていく。地球は太陽をまわり、太陽光線は毎日違う角度でさす」
「ゆっくりみる?」
「おれはそれをすすめるね」
アルバムのページをゆっくりと繰るポール。あるページで手がとまります。
「みろ、エレンが映ってる」
亡くなったポールの奥さんが映っている写真でした。
「そうだ。ほかにも何枚かある」
「ぼくの愛したエレン・・・」
泣き崩れるポールの肩に、オーギーは優しく手をかけます。
※※※※※※※※※※※
ラシードがポールの家を出ていってから二日後、ある女がポールの部屋にやってきます。
「甥のトーマスはどこ」
「トーマス?だれだそいつは?」
「とぼけたってだまされないわよ」
「ひょっとして、ラシードのことか」
少年の本名はトーマス・ジェファーソン・コール。いなくなったトーマスを心配したおばさんが探しにきたのでした。
「ぼくの知るかぎり、両親のところにもどったはずだが」
「母親は死んで、父親は一二年前に蒸発したわ」
「引きとめておけばよかった・・・最近、何か家を飛びだすようなことがあったのか」
「関係ないとは思うんだけど・・・二週間ほどまえ、知り合いがあのコの父親を郊外の給油所でみかけたって」
「それを彼に話したのか?」
「だって、話すべきでしょ?」
トーマスは、ポールの家を出ていったあと、父親のところに会いにいったのです。
※※※※※※※※※※※
映画のラスト。
クリスマスがせまった年の暮れ、ポールはオーギーの店へやってきます。
「二日前にニューヨークタイムズから電話があってね。クリスマスの日の紙面にのせるクリスマスの話を書けって。締め切りまであと四日だが、アイデアがうかばない。何かいい話を知っているかい」
「もちろんだ。昼メシをおごってくれたら話すぜ」
オーギーは、自分の身におきたクリスマスの話をポールにきかせます。
それは、毎朝写真をとっているあのカメラをめぐる、ひとりの盲目の老婆との話でした。
聞きおわったポールが口をひらきます。
「そのあと会いにいかなかったのか」
「一度。三、四ヶ月あとに。会いにいったが、別の家族がすんでた。婆さまの居場所は『知らない』と」
「死んだのかな」
「たぶんね」
「クリスマスの話になるだろ?」
「ああ、助かったよ。・・・勘どころを心得ていて面白い話に仕上がってる。きみは大ベテランだよ」
「・・・どういう意味だ?」
「・・・つまり、素晴らしいクリスマス・ストーリーだ!」
「秘密を分かち合えない友達なんて、友達とはいえないだろ?」
トム・ウェイツの歌声が流れ出し、映画は幕を閉じます。