オススメの映画 スモーク ※ネタバレ注意
この映画の舞台はニューヨーク、ブルックリンにある、一軒のタバコ屋です。
このお店の店主はオーギー・レン。きょうも馴染みの客とくだらない話に興じています。
そこへやってきたのが小説家のポール・ベンジャミン。疲れた様子のポールにオーギーは話しかけます。
「ちょうど話してたところなんだ。シガーと女についての哲学的話をね」
「となると、エリザベス女王の話ってことだな」
ポールは煙の重さを量ったかしこい男についてのエピソードを披露して帰っていきます。
オーギーは馴染みの客に話します。
「近所に住んでる作家だよ。ポール・ベンジャミンだ。知ってるか?」
馴染みの客たちは肩をすくめます。
「聞くほうがバカだ。おまえらが読むのは競馬の予想とスポーツ紙だけだからな。3~4冊出版したが、最近は書いてないんだ」
「ネタぎれかな」
「そうじゃない。数年前の銀行強盗をおぼえてるか。犠牲者のひとりがやつのカミさんだった。とてもいい人で、店にもときどきタバコを買いにきてた。妊娠四、五ヶ月だったけど、もちろん、お腹の赤ん坊も死んじまった。まだ立ち直れないのさ」
肩をおとし、うつろな顔で通りを歩くポール。ふらふらと車道にあるきだし、そこに車が突っ込んできます。
「危ない!」
すんでのところをある黒人の少年に助けられます。少年の名前はラシード・コール。ポールは感謝の意をこめて、「ぼくの家にいつでも泊まりにくるといい」と住所を書いたメモをわたします。
後日、少年は二晩ほど泊まったあとどこかに去っていきます。
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ある日、オーギーが店を閉めようとしているところにポールが駆けこんできます。
「まだ売ってくれるかな」
「もちろん。べつにこれからオペラにいくわけじゃない」
レジで勘定をするときに、ポールは一台のカメラに気がつきます。
「だれかの忘れものかい?」
「いいや、俺のさ」
家に招かれたポールはオーギーの膨大な写真をみせられます。オーギーは十年以上、毎朝、おなじ時間におなじ場所に立って写真を撮りつづけてきたのです。
「ゆっくりみなきゃダメだ」
「だって、全部同じ写真じゃないか」
「いいや、同じ写真のようにみえて微妙にちがうんだ。よく晴れた朝。曇った朝。夏の日差し。秋の日差し。新しい顔が常連になって古い顔が消えていく。地球は太陽をまわり、太陽光線は毎日違う角度でさす」
「ゆっくりみる?」
「おれはそれをすすめるね」
アルバムのページをゆっくりと繰るポール。あるページで手がとまります。
「みろ、エレンが映ってる」
亡くなったポールの奥さんが映っている写真でした。
「そうだ。ほかにも何枚かある」
「ぼくの愛したエレン・・・」
泣き崩れるポールの肩に、オーギーは優しく手をかけます。
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ラシードがポールの家を出ていってから二日後、ある女がポールの部屋にやってきます。
「甥のトーマスはどこ」
「トーマス?だれだそいつは?」
「とぼけたってだまされないわよ」
「ひょっとして、ラシードのことか」
少年の本名はトーマス・ジェファーソン・コール。いなくなったトーマスを心配したおばさんが探しにきたのでした。
「ぼくの知るかぎり、両親のところにもどったはずだが」
「母親は死んで、父親は一二年前に蒸発したわ」
「引きとめておけばよかった・・・最近、何か家を飛びだすようなことがあったのか」
「関係ないとは思うんだけど・・・二週間ほどまえ、知り合いがあのコの父親を郊外の給油所でみかけたって」
「それを彼に話したのか?」
「だって、話すべきでしょ?」
トーマスは、ポールの家を出ていったあと、父親のところに会いにいったのです。
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映画のラスト。
クリスマスがせまった年の暮れ、ポールはオーギーの店へやってきます。
「二日前にニューヨークタイムズから電話があってね。クリスマスの日の紙面にのせるクリスマスの話を書けって。締め切りまであと四日だが、アイデアがうかばない。何かいい話を知っているかい」
「もちろんだ。昼メシをおごってくれたら話すぜ」
オーギーは、自分の身におきたクリスマスの話をポールにきかせます。
それは、毎朝写真をとっているあのカメラをめぐる、ひとりの盲目の老婆との話でした。
聞きおわったポールが口をひらきます。
「そのあと会いにいかなかったのか」
「一度。三、四ヶ月あとに。会いにいったが、別の家族がすんでた。婆さまの居場所は『知らない』と」
「死んだのかな」
「たぶんね」
「クリスマスの話になるだろ?」
「ああ、助かったよ。・・・勘どころを心得ていて面白い話に仕上がってる。きみは大ベテランだよ」
「・・・どういう意味だ?」
「・・・つまり、素晴らしいクリスマス・ストーリーだ!」
「秘密を分かち合えない友達なんて、友達とはいえないだろ?」
トム・ウェイツの歌声が流れ出し、映画は幕を閉じます。